私が台湾を訪れた際、現地の友人が当たり前のようにLINEでニュースや天気だけでなく、野球の試合中継まで見ている光景に驚かされました。日本ではコミュニケーションツールとしての側面が強いLINEですが、台湾では生活に欠かせないインフラとして定着しています。
なぜ、人口の約8割もの人々がこのサービスに熱狂しているのでしょうか。その背景には、徹底的なローカライズと、単なるニュースアプリの枠を超えた戦略的な進化がありました。本記事では、LINE TODAYがどのようにして台湾の人々の生活を変えたのか、その成功の要因を解説します。
台湾でLINE TODAYが生活の一部になった背景

LINE TODAYは単なるニュース配信機能ではありません。台湾の人々にとっては、インターネットの入り口となる巨大なポータルサイトです。私が現地で見た光景は、まさに生活そのものがアプリの中に集約されている姿でした。
日本のLINE NEWSとは異なる戦略的地位
日本のLINE NEWSと台湾のLINE TODAYは、似て非なる存在といえます。日本ではYahoo! JAPANという強力なポータルサイトが存在するため、LINE NEWSはメッセンジャーアプリの付帯機能という位置づけです。
一方で台湾やタイでは、PC時代のWebポータルサイトの役割をモバイル上で完全に代替しています。スーパーアプリのフロントエンドとして機能しており、ユーザーはアプリを離れることなくあらゆる情報にアクセスできます。
以下の表は、日本版とグローバル版の主な違いをまとめたものです。
| 比較項目 | 日本 (LINE NEWS) | 海外 (LINE TODAY) |
|---|---|---|
| 位置づけ | メッセンジャー付帯機能 | 総合エンターテインメントハブ |
| アクセス | 「ニュース」タブ | 「TODAY」タブ |
| 主要機能 | ニュース、天気 | 生中継、予約、映画、宝くじ |
| 収益源 | 広告 | 広告、有料配信、ゲーム連動 |
このように、海外版では生活に必要な機能が網羅されています。私が実際に触ってみた際も、その多機能ぶりに圧倒されました。
圧倒的なユーザー数と利用率の高さ
台湾におけるLINEの普及率は人口の約9割に達しています。その中でもLINE TODAYは月間1,800万人以上のユーザーに利用されています。
これは台湾人口の約78%に相当する驚異的な数字です。単なるアプリ機能の枠を超え、台湾社会における主要な情報インフラとしての地位を確立しました。
多くの人々が毎日のニュースチェックからエンタメ情報の収集まで、すべてをLINE TODAYで行っています。私が現地のカフェで見かけた人々も、皆スマートフォンでこの画面を開いていました。
ユーザーを離さない多彩なコンテンツと機能

LINE TODAYの魅力は、そのコンテンツの幅広さにあります。現在20以上のカテゴリが提供されており、ユーザーのあらゆる関心をカバーしています。
スポーツ中継やエンタメ情報の充実
特筆すべきはスポーツ分野への注力です。台湾では野球やNBAの人気が非常に高く、LINE TODAYはこれらの需要を的確に捉えています。
試合結果やハイライト映像だけでなく、詳細なスタッツまでリアルタイムで提供しています。大谷翔平選手に関する報道も、試合結果からオフシーズンの動向まで網羅的にカバーされています。
さらに2023年には台湾プロ野球リーグと提携し、試合の有料ライブストリーミングを開始しました。これは従来の広告モデルから、有料コンテンツプロバイダーへと進化する重要な転換点です。
映画予約からグルメまで完結するO2O体験
情報を閲覧して終わりではなく、実社会での行動へ繋げる機能も充実しています。これがO2O(Online to Offline)の実装です。
映画カテゴリでは予告編を見るだけでなく、上映時間の確認やチケット予約までワンストップで行えます。鑑賞後には評価やレビューを投稿することもできます。
グルメカテゴリでも同様に、レストラン紹介記事から直接予約画面へ遷移できます。私が旅行中に店を探した際も、この機能のおかげでスムーズに予約ができました。
信頼性を担保するファクトチェック体制
デジタル空間では情報の信頼性が常に問われます。LINE TODAYは台湾社会において、信頼できる情報源としての地位を確立することに成功しました。
パンデミック期間中、フェイクニュースが錯綜する中で、LINE TODAYのファクトチェック記事へのアクセスは400%も急増しました。ユーザーは不確実な状況下で、正解を確認する場所として利用したといえます。
台湾内外の600以上のメディアパートナーと提携し、質の高い記事を供給し続けています。アルゴリズムによる偏りを防ぎ、健全な情報環境を守っている点は高く評価できます。
タイや他国における独自の進化と明暗

LINE TODAYの成功は台湾だけにとどまりません。タイなどの他国市場でも、現地の文化に合わせた独自の進化を遂げています。
タイで熱狂を生むLIVE TODAYとコミュニティ
タイ市場では「ニュースを読む場所」から「体験を共有する場所」へと定義を拡張しています。その象徴が「LIVE TODAY」と呼ばれるライブストリーミングソリューションです。
タイでは月2回の宝くじ抽選会が国民的なエンターテインメントとなっています。この抽選会のライブ配信は平均320万回も視聴され、当選の喜びや落選の悔しさをリアルタイムで共有するイベントとなっています。
視聴体験を阻害しない技術的な工夫として、Picture in Picture(PIP)機能があります。ユーザーは配信画面を小さく表示しながら、友人とチャットで感想を言い合うことができます。
香港のAI活用とインドネシアの戦略的撤退
香港市場では、高度な金融都市としての特性に合わせた運営が行われています。AIがユーザーの閲覧履歴に基づいて最適なニュースを選別し、効率的に情報を届けています。
香港ユーザーは議論への参加意欲が高いため、「Discussion Wall」という機能で意見交換の場を提供しています。私が香港の友人に聞いたところ、この機能でニュースに対する議論が活発に行われているそうです。
一方でインドネシア市場では、2022年にサービスを終了しました。これは地場のニュースアプリやTikTokとの競争激化を受けた戦略的な判断です。
現在はデジタルバンキングサービス「LINE Bank」に注力しています。収益性の高い事業へリソースを集中させるピボットを行ったといえます。
今後のビジネス展開と収益化の未来

LINE TODAYは広告収入だけに頼るモデルからの脱却を進めています。持続的な成長のために、新たな収益源の開拓に挑戦し続けています。
ゲーム連動やポイント経済圏の拡大
2026年にはモバイル広告プラットフォーム「adjoe」との提携を発表しました。これにより、ゲームをプレイすることでLINEポイントを獲得できる「Playtime」機能が導入されました。
ユーザーは無料でポイントを得られ、企業は質の高いユーザーを獲得できます。獲得したポイントはLINE Payでの決済などに利用でき、経済圏内での循環を促進します。
私が試したところ、ゲームを楽しむだけでポイントが貯まる仕組みは非常に魅力的でした。これによりユーザーのアプリ滞在時間はさらに延びると予想されます。
ショート動画やAIへの対抗策
今後の課題はTikTokなどのショート動画プラットフォームとの競争です。テキストと静止画が中心のLINE TODAYがいかに動画コンテンツを取り込むかが鍵となります。
香港やインドネシアでショート動画サービス「LINE VOOM」を終了した動きもあります。リソースを分散させるよりも、強みであるメッセンジャーとニュース配信に集中する戦略を選択しました。
AIによる記事生成が進む中で、オリジナルコンテンツの価値をどう維持するかも重要です。信頼性を武器に、プラットフォームとしての価値を高め続ける必要があります。
まとめ|LINE TODAYが示す適応型プラットフォームの強さ

LINE TODAYは単なるニュースアプリではありません。各国の文化や通信環境に合わせて変幻自在に形を変える、適応型のプラットフォームです。
台湾ではインフラとして、タイではコミュニティハブとして進化しました。インドネシアでの撤退も含め、その国に最適な形を常に模索し続けています。
私が各国で見たLINEの使われ方は、その柔軟な戦略の結果でした。今後もAIとコミュニティの力で、ユーザーの生活に不可欠な存在であり続けるでしょう。


