海外旅行でのインターネット利用に、今やeSIMは欠かせない存在です。物理的なSIMカードを抜き差しする必要がなく、渡航先で手軽にデータプランを契約できる手軽さは、一度使うとやめられません。しかし、便利なeSIMだからこそ、帰国後の設定を正しく行わないと思わぬトラブルに見舞われることがあります。
私が特に重要だと考えているのが、帰国直後のデータローミング設定の見直しです。この設定を怠ると、最悪の場合、高額な通信料を請求される可能性すらあります。この記事では、海外旅行でeSIMを使い倒した私が、帰国後に必ず実践している設定方法と、万が一通信トラブルが起きた際の解決策を徹底的に解説します。
帰国後にまずやるべきeSIMの設定手順

日本に到着して飛行機を降りたら、スマートフォンを国内で快適に使うために、いくつかの設定を正しい順番で行う必要があります。海外で利用していたeSIMをオフにし、日本で使っている主回線をオンにするだけでは不十分な場合があります。
通話、SMS、データ通信のそれぞれについて、どの回線を使うかをスマートフォンに明確に指示してあげる作業が必要です。私が実践している「スリーポイント・チェック」を行えば、誰でも簡単かつ確実に国内回線へ切り替えられます。
iPhoneの場合の切り替え手順
iPhoneユーザーの方は、以下のステップで設定を進めてください。この手順で、国内キャリアのサービスを完全に復旧させます。
- 機内モードをオフにする|コントロールセンターまたは「設定」アプリから機内モードをオフにします。
- 海外eSIMをオフにする|「設定」→「モバイル通信」の順に進み、「SIM」のリストから海外旅行で使ったeSIMを選び、「この回線をオンにする」のスイッチをオフ(白色)にします。
- 主回線をオンにする|同じく「SIM」のリストから、普段日本で使っている主回線を選び、「この回線をオンにする」がオン(緑色)になっていることを確認します。
- 音声回線を主回線に設定する|「モバイル通信」の画面に戻り、「デフォルトの音声回線」をタップして、国内の主回線を選択します。これは非常に重要な設定です。
- データ通信を主回線に設定する|同様に「モバイルデータ通信」をタップし、国内の主回線を選択します。これを忘れると、Wi-Fiがない場所で通信できなくなります。
- 主回線のデータローミングをオフにする|主回線の設定画面を開き、「データローミング」がオフになっていることを必ず確認します。
- 接続を確認する|Wi-Fiをオフにしてブラウザを開き、ウェブページが表示されるか、画面上部に契約キャリア名が表示されているかを確認して完了です。
Androidの場合の切り替え手順
Androidスマートフォンの場合、メーカーによってメニュー名が少し異なりますが、基本的な考え方はiPhoneと同じです。
- 機内モードをオフにする|クイック設定パネルなどから機内モードを無効にします。
- 海外eSIMをオフにする|「設定」→「ネットワークとインターネット」→「SIM」と進み、海外旅行で使ったeSIMを選んで「SIMを使用」をオフにします。
- 主回線をオンにする|リストから国内の主回線を選び、「SIMを使用」をオンにします。
- 各機能の優先回線を設定する|「SIM」の設定画面にある「モバイルデータ」「通話」「SMS」の各項目で、すべて国内の主回線が選択されていることを確認します。
- 主回線のデータローミングをオフにする|主回線の設定画面で、「ローミング」または「データローミング」がオフになっていることを確認します。
- 接続を確認する|Wi-Fiを切断し、ブラウザでインターネットに接続できるか試して完了です。
データローミングをオフにし忘れるとどうなる?

帰国後の設定で最も注意すべき点が「データローミング」です。海外滞在中は海外用eSIMのデータローミングをオンにしますが、帰国後は国内の主回線のデータローミングは必ずオフにしなくてはなりません。
もしこの設定を忘れてしまうと、意図しない高額請求に繋がるリスクがあります。なぜそうなるのか、その仕組みを詳しく解説します。
高額請求のリスク
データローミングとは、契約している通信キャリアの電波が届かないエリアで、提携する他社のネットワークを借りて通信する仕組みです。海外で現地の電波を使うのは、まさにこのローミング機能のおかげです。
しかし、国内の主回線のデータローミングをオンにしたまま日本にいると、何かの拍子にスマートフォンが海外のネットワークに接続しようと試みてしまう可能性があります。その場合、国内キャリアが提供する高額な従量課金制の国際ローミングサービスが適用され、気づかないうちに数万円といった請求が発生する恐れがあります。このような事態を避けるためにも、帰国後のデータローミング設定は非常に重要です。
主回線(国内SIM)のデータローミングはなぜオフにするのか
「海外ではeSIMのローミングをオンにしたのに、なぜ日本では主回線のローミングをオフにするの?」と疑問に思うかもしれません。これは、それぞれのSIMが置かれている状況が根本的に違うからです。
SIMの種類 | 滞在場所 | ローミング設定 | 理由 |
海外旅行用eSIM | 海外 | オン | 現地の提携ネットワーク(ゲスト)に接続してデータ通信するため。 |
---|---|---|---|
国内の主回線SIM | 海外 | オフ | 高額な国際ローミングを防ぐため。 |
国内の主回線SIM | 日本国内 | オフ | 自社のネットワーク内にいるため、ローミングは不要。誤作動によるリスクを避けるための安全策。 |
海外用eSIMにとって、渡航先の国は「アウェイ」です。そのため、現地の電波を借りるローミングをオンにしないと通信できません。一方で、日本国内にいるときの主回線にとっては、そこは「ホーム」です。自社の電波が全国に張り巡らされているため、他社の電波を借りるローミング機能を使う必要が全くありません。むしろ、オンにしておくメリットは何もなく、意図しない課金リスクを高めるだけです。
帰国後に国内回線が繋がらない時の対処法

解説した手順通りに設定したはずなのに、なぜか国内回線に繋がらない、というトラブルも稀に発生します。これはスマートフォンのソフトウェアが海外のネットワーク設定を引きずってしまい、一時的に混乱している状態がほとんどです。
慌てずに、簡単なリセットから順番に試していくことで、大抵の場合は解決します。私が実際に試して効果があった方法を紹介します。
簡単なリセット方法
まずは誰でもすぐに試せる、基本的な対処法です。
- スマートフォンの再起動|最もシンプルで効果的な方法です。一度電源を完全に切り、数十秒待ってから再び電源を入れます。これで多くのソフトウェア的な不具合が解消されます。
- 機内モードのオン・オフ|機内モードをオンにして30秒ほど待ち、その後オフに戻します。この操作は、通信関連の機能を強制的にリセットし、改めて国内のネットワークを探しに行かせる効果があります。
ネットワーク設定の確認とリセット
簡単なリセットで改善しない場合は、設定をもう一度見直すか、少し強力なリセットを試します。
設定の再確認
もう一度、この記事の最初のセクションで解説した手順を見直してみてください。「モバイルデータ通信」や「デフォルトの音声回線」の設定が、正しく主回線になっているか、海外eSIMがきちんとオフになっているかなど、見落としがないかを確認します。
APN(アクセスポイント名)の確認
海外eSIMを使った影響で、APN設定がおかしくなっていることがあります。
- iPhoneの場合|「設定」→「一般」→「VPNとデバイス管理」に、見覚えのない構成プロファイルがあれば削除します。
- Androidの場合|「設定」→「SIM」→「アクセスポイント名(APN)」と進み、契約している国内キャリアのAPNが選ばれているか確認し、不明な場合は「標準設定にリセット」を実行します。
ネットワーク設定のリセット
これが最終手段に近いですが、非常に効果的です。この操作を行うと、保存しているWi-FiのパスワードやBluetoothのペアリング情報もリセットされるので注意してください。
- iPhoneの場合|「設定」→「一般」→「転送またはiPhoneをリセット」→「リセット」→「ネットワーク設定をリセット」を実行します。
- Androidの場合|「設定」→「システム」→「リセット オプション」→「Wi-Fi、モバイル、Bluetoothをリセット」などを実行します。
使い終わった海外eSIMはどうするべき?

無事に国内回線へ切り替えが完了した後、もう一つ考えるべきことがあります。それは「使い終わった海外eSIMをどうするか」という問題です。選択肢は「無効化(オフにする)」か「削除」の2つです。
これは今後の旅行計画や購入したeSIMのタイプによって、どちらが最適か変わってきます。それぞれのメリットを理解し、自分に合った方法を選びましょう。
「無効化」がおすすめなケース
eSIMプロファイルをデバイス内に残したまま、機能をオフにしておくのが「無効化」です。私が多くのケースで推奨する方法でもあります。
最大の理由は再利用できる可能性があるからです。多くのeSIMサービスでは、同じプロファイルにデータを追加購入(トップアップ)できます。eSIMを無効化して残しておけば、次に同じ国へ行く際に、面倒なQRコードのスキャンなどをせずに、プランを追加購入するだけで済みます。将来的な手間を省ける、賢い選択です。
「削除」がおすすめなケース
一方で、eSIMプロファイルを完全にデバイスから消去するのが「削除」です。一度削除すると元には戻せません。
削除が推奨されるのは、購入したプランが完全に使い切りで、再利用できないことが分かっている場合です。プロファイルを削除することで、SIMのリストがすっきりし、誤操作のリスクを完全になくせます。また、スマートフォンを売却したり譲ったりする際には、個人情報保護の観点から必ずすべてのeSIMプロファイルを削除する必要があります。
まとめ

eSIMは海外旅行を劇的に便利にしてくれるツールですが、その恩恵を最大限に受けるには、帰国後の正しい設定が不可欠です。この記事で解説したポイントを再度おさらいします。
帰国後の設定は、以下の「スリーポイント・チェック」が全てです。
- 国内の主回線を「オン」にする
- 海外旅行用eSIMを「オフ」にする
- データ通信と音声通話のデフォルト回線を「主回線」に設定する
そして、主回線の「データローミング」は必ずオフにしておきます。これらの手順を確実に実行すれば、トラブルなくスムーズに普段の通信環境に戻れます。万が一繋がらない場合も、再起動やネットワーク設定の見直しで解決できます。帰国後の正しいeSIM管理をマスターして、ストレスフリーなデジタル・トラベルライフを送りましょう。